ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ

ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』を見た。幾何学的でサイケデリックな猫のイラストで有名なイギリスの画家ルイス・ウェインの伝記映画だ。

 

横移動のトラッキングシンメトリックな構図、
絵画的なロングショットと、カメラワークがお洒落だった。色彩や質感も凝ったつくりで、ルイス・ウェインの絵画を意識しているように感じる。
また視覚的な工夫として、レンズフレアの視覚効果が積極的に取り入れられている。これはルイスがエミリーに好意を抱き始めて以降、頻繁に見られ、物語の中盤に「あなたはプリズム 人生の光線を屈折させる」とエミリーがルイスをプリズムに喩えるシーンもある。フレアやゴーストといった現象は強い光源にレンズを向けた時の光の屈折や反射によって生じるものだ。彼にとってエミリーやピーターがまさに光線であり、彼の精神世界は視覚的に観客に共有されている。ここでレンズフレアは、美しさや神秘的な雰囲気の演出するだけでなく、登場人物の主観的な風景の表出として機能する。

 

撮影監督はリチャード・アイオアディ監督作や『パディントン』シリーズで知られるエリック・アレキサンダー・ウィルソンが務めている。私は彼の撮影監督を務めた作品がけっこう好きで、自然光を一切用いないライティング『嗤う分身』は一見の価

ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』を見た。幾何学的でサイケデリックな猫のイラストで有名なイギリスの画家ルイス・ウェインの伝記映画だ。

横移動のトラッキングシンメトリックな構図、
絵画的なロングショットと、カメラワークがお洒落だった。色彩や質感も凝ったつくりで、ルイス・ウェインの絵画を意識しているように感じる。
視覚的な工夫は他にもある。レンズフレアの視覚効果が積極的に取り入れられている。これはルイスがエミリーに好意を抱き始めて以降、頻繁に見られる。物語の中盤に「あなたはプリズム 人生の光線を屈折させる」とエミリーがルイスをプリズムに喩えるシーンがある。フレアやゴーストといった現象は強い光源にレンズを向けた時の光の屈折や反射によって生じるものだ。彼にとってエミリーやピーターがまさに光線であり、彼の精神世界は視覚的に観客に共有される。ここでレンズフレアは、美しさや神秘的な雰囲気の演出するだけでなく、登場人物の主観的な風景の表出として機能する。

撮影監督はリチャード・アイオアディ監督作や『パディントン』シリーズで知られるエリック・アレキサンダー・ウィルソンが務めている。そういえば、同じく彼が撮影監督を務めた、R・アイオアディ監督作『嗤う分身』は、自然光を一切用いないライティングが面白かったし、『パディントン2』色彩は鮮やかで優しい色合いが作品の雰囲気を支えていて光の操り方が上手な人だと思った。

 

『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』

ポール・キング 監督『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』を見た。1971年メル・スチュワート監督『夢のチョコレートの工場』に着想を得て作られた、ロアルド・ダールの児童小説『チョコレート工場の秘密』の前日譚である。ポール・キング監督作であること以外にはこれといった思い入れはなかったのだが、独特の画作りや社会問題を寓話的に描いた脚本が素晴らしくポール・キング監督の作家性の確立を感じる一作で、見てよかったと思う。

 

チョコレート職人のウィリー・ウォンカ( ティモシー・シャラメ)は、自分の店を持つことを夢見て、チョコレートの名店が集まる町にやってくる。
世間知らずで文字が読めないウォンカは、宿屋兼洗濯屋を営むミセス・スクラビット(オリヴィア・コールマン)に騙され彼女の店で強制的に働かされてしまう。そこで同じく働かされている孤児の少女ヌードル(ケイラ・レーン)と親しくなったウォンカは、彼女の助けを得てこっそり町でチョコレートを売り始める。ウォンカの腕は一流で、彼のチョコレートは瞬く間に町で評判になるのだが、彼を疎ましく思うチョコレート組合に行く手を阻まれる……。


ジャン=ピエール・ジュネ作品のような少し黄みがかった色彩設計と箱庭感のある美術が相俟って、童話のような雰囲気を演出している。旅行鞄の中の小さなチョコレート工場や、ギミックたっぷりのステッキなど、キング監督作らしい手の込んだ小道具に胸が踊る。
本作はイギリスの街並みや建築物が多く登場するが、物語の舞台はヨーロッパの雰囲気漂う架空の町らしい。美術はクリストファー・ノーラン作品で知られるネイサン・クロウリーが担当している。”グルメ・ガレリア“と呼ばれるチョコレートショップが立ち並ぶアーケードは、ミラノのヴィットーリオ・エマヌエーレ2世のガッレリアを彷彿とさせる。大聖堂は、ロンドンのセント・ポール大聖堂プラハの聖ニコラス教会を組み合わせたようなデザインだ。ウォンカがチョコレートをゲリラ販売するシーンで登場した木造の路面電車も、ヨーロッパらしさを醸し出していて、リスボンのトラム28のようなゴールデンイエローとホワイトのバイカラーがキュートだった。とはいえ、絢爛で壮大なセットも、パディントンのポップで可愛く緻密に作り込まれた美術と比べてしまうと、どうしても物足りなさを感じてしまった。好みの問題ではあると思う。

またCG表現もいまひとつに感じた。ウォンカとともに洗濯屋で強制労働に従事する会計士のアバカス(ジム・カーター)が裏帳簿について回想するシーンのアニメーションや、ウォンカがチョコレートをゲリラ販売するシーンに挿まれるコマ撮りの演出は楽しく見られた。しかし、『パディントン2』の序盤でパディントンが絵本の中のロンドンをルーシーおばさんが観光して回る空想や、愉快な音楽に乗せたマーマレード作りのシークエンスに匹敵するような映像表現はなく、CGが粗い部分が目立って没入感に欠けている。食べなければウォンカのチョコレートで魔法にかかることはできないようだ。

 

子ども向けミュージカル映画として、ウェルメイドな作品ではあったが、物足りなさ感じる部分があったことは否めない。また、サリー・ホーキンスヒュー・グラントに限らず、『パディントン2』の囚人Tボーン役のトム・デイヴィスや、看守役コブナ・ホールドブルック=スミスがそれぞれ主要な役どころで出演していてキャスティングも楽しめたが、主演のティモシー・シャラメに関してはSNLのスキットの一件があり複雑な心境だった。